GO MOUTH UNDER MOUTH 本文へジャンプ
ページトップへ
耳切り坊主(沖縄)       
 私の持っているCD『沖縄のわらべ歌』(マルフクレコード)には、『大村御殿』(うふむらうどぅん)という題名になっていました。歌い出しが「うふむらうどぅんぬ・・・」ですので、題名としてはこれでいいのかもしれませんが、私には『耳切り坊主(みみちりぼーじ)』の方が馴染みがありますので、記事の題名はこちらにしました。
 ついでに、私の記憶とCDとの違いをお話ししますと、「大村御殿ぬ門なかい」を、私は「うふむらうどぅんぬじょーなかい」と思っていましたが、CDでは「うふむらうどぅんぬかどぅなかい」と歌っています。文字も「角なかい」としているようですが。まあ、どちらでもいいんでしょうけれど。

 「耳切り」「坊主」と並べますと、だれでも「耳なし法一」という話を思い浮かべるわけです。琵琶の名手である法一は、怨霊の攻撃から身を守るために全身に経文を書くのですが、耳だけ書くのを忘れてしまい、耳を失うという話だったと思います。てっきり、この話と共通だと思っていたのですけれど、ずいぶん違う内容でした。
 『沖縄大百科事典』(沖縄タイムス社)によれば、この耳切り坊主は、黒金座主という名前の怪僧で妖術使い。これを退治せよと、尚敬王が弟の北谷王子に命じます。北谷王子は黒金座主の耳を切り落として殺しましたが、大村御殿の角に耳の無い坊主の亡霊が立つようになり、北谷王子の家では、男の子が生まれると早死にするということが続きました。黒金座主の祟りだったのです。そこで、「男の子が生まれたら、大女子(うふいなぐ)が生まれた」と言うことで、祟りを避けるようになったそうです。
 実際、「生まれた子供の性別を逆に呼ぶ」という命名儀礼が沖縄にあったそうです。一種の「魔よけ」なんですね。
 それにしても少し不思議なのは「耳を切られて黒金座主が死ぬ」という点。妖術使いにしてはだらしないような・・・

 そうでした。大切なことを書き忘れていました。『耳切り坊主』は子守歌です。歌詞の中に「ヘイヨーヘイヨー」とか「ベルベルベル(CDにはありませんでした)」という子どもをあやす言葉が入っています。
 そして、歌の内容。先ほどの「黒金座主」や「北谷王子」の話は出てきません。歌は、最初から「耳切り坊主」が出てきます。その表現がおもしろいです。
 耳切り坊主という恐ろしい亡霊が、大村御殿の角に立っているのですが、「いくたいいくたい立っちょうが」(何人立っているの)という問いに対して、「三人四人」(みっちゃいゆったい)立っていると答えるのです。一人で十分だと思いますが。
 持っているのは鎌(かま)や刀、小刀に包丁。用意周到です。想像してみてください。いろんな刃物を持って立っている何人もの「耳切り坊主」。泣く子は、耳切り坊主に耳を切られるぞ。と脅かす内容です。もう逃げられません。

 その「耳を切る」という表現が「泣ちょる童 耳ぐすぐす」です。

 沖縄の友人が「ミミガーは、ぐすぐすしておいしい」と言っていました。今風に書けば「コリコリ感」となるでしょうか。沖縄県民の表現する、ミミガーの食感。その極めて身近で具体的な、経験に基づいた表現が、この『耳切り坊主』の「耳ぐすぐす」にも使われているわけです。子どもたちは「耳ぐすぐす」のくだりで、それまでミミガーにしか当てはめていなかった「ぐすぐす」を、初めて自分の耳に置き換えることになるのでしょう。この恐怖は計りしれませんね。

 おや、歌の内容は、先に書きました伝説とは違っているような。まあ、気にしないことにしましょう。

2004,5