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米ぬユングトゥ(八重山)
「ユングトゥ」とは、八重山地方に伝わる語り芸の一つと説明すればよいと思います。リズミカルな口調のものや、はっきりとしたメロディーのついたものもありますが、ユンタやジラバのように、大勢で歌うことはなく、お客さんの前で演じるという形が普通です。
ユングトゥは歌とちがって、CDなどで紹介されることが少ないと思います。みなさんも、ユングトゥを見る機会はめったにないと思いますが、私の思い出話にしばらくおつきあいのほどを。
この『米(まい)ぬユングトゥ』は、竹富島で教えていただいたものです。メロディーに乗せて歌うように語られます。
西(いり)ぬたばるー
東(あい)ぬたばるー
ふんたりけんたりしくたる米やー
北風(にしかじ)ぬすばばー
南(ぱい)ぬあぶしばまくらばし
南風(ぱいかじ)ぬすばばー
北(にし)ぬあぶしばまくらばし
(以下、省略)
西の田
東の田
踏んだり蹴ったりして作った米は
北風が吹けば
南の畦(あぜ)を枕にして、
南風が吹けば
北の畦を枕にする。
たいへんわかりやすい内容です。
このあと、「稲刈りをすると、たくさんの米が収穫できた。収穫は、だれのものだ?私のものだよー」というセリフで終わります。
教えて下さったのは、竹富島の芸能に大変詳しい上勢頭亨(うえせど とおる)氏(残念ながら、故人となられました)です。あるとき、上勢頭亨さんに、
「今度、舞台でやってみようと思っているのですけれど」
と相談しますと、
「だったら、先にこれを言う方がいいよ」
と、こんな言葉を教えてくださいました。(私の記憶に間違いがあったらごめんなさい)
ばんどぅ、ゆならだーぬまいゆ ふくりどぅぶったきんどぅ
まいぬユングトゥゆみば
けーら ひきたぼーりゆー
私は、ヨナラ田の米を作っていました
米ぬユングトゥを言いますので
みなさん 聞いてください
竹富島は、米のできない島です。
でも、西表に土地があり、そこで米を作っていたそうです。ヨナラ田(ゆならだー)も、実在する田の名前だそうです。一つの芸能から、竹富島の生活が見えるような気がします。
米ぬユングトゥは、比較的わかりやすい言葉が多いと思います。でも、どうしても理解しにくいものがありました。それは、「ふんたりけんたり」です。米を作るのに「踏んだり蹴ったり」って、そりゃないでしょう。と思っていると、こんな説明が。
「田に牛を入れて、土を踏ませる。それが耕すことにもなるし、底を固めて水が溜まりやすくする効果もあるらしい」
なるほど、それで踏んだり蹴ったりなんですね。他の人は、別の説明をするかもしれませんが、私はこの説明で納得しています。
先輩がこの芸を演じているのを初めて見たとき、八重山の、芸能の多様さを思い知らされました。貴重な芸能を残してくださった先人たちに感謝です。
追記:
竹富島の地名に、「田」表す言葉があるそうです。その点から、稲作をしていた可能性があるとの指摘をいただきました。追記し、情報提供してくださったかたに感謝します。
2003,6