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かぎやで風節(琉球舞踊)     
 もし、三線音楽の中のランキング付けをしたら、この曲が「全県トップ」になること、間違いありません。宮古地区、八重山地区でも上位に食い込むでしょう。年間ランキングで他の曲がトップに来ることはあっても、100年単位で見れば、確実です。でも、県外ではずっと下?

 「カギヤデフウブシ」と読む人も多いですけれど、本来は「カジャディフウ」と読むのが正しいはずです。
 旧仮名遣いで、「醤油」を「せうゆ」、「蝶々」を「てふてふ」と書くように、沖縄で「カジャディ」は「かぎやで」と表記すると考えればよいでしょう。
 古典の工工四を見ますと、
 「けふのほこらしやや なをにぎやなたてる つぼでをるはなの つゆきやたごと」
 と書かれています。これを、
 「きゆぬふくらしゃや なうにじゃなたてぃる ち(つぃ)ぶでぃうるはなぬ ち(つぃ)ゆちゃたぐとぅ」
 と読みます。沖縄にはいろんな人がいろんな工工四を書いています。中には、古い仮名遣い+沖縄的表現+著者の思いつき(?)で構成されているものもあり、正しく読むのはむずかしいんです。困ったものです。また、工工四の同じページの中でも、歌詞をまとめて書いてある欄にはさきほどの沖縄的仮名遣いで書いてあって、工工四の升目の中(つまり1番だけ)は現代仮名遣いに近くなったりもしています。

 歌の出だしが「きゆぬ」ですので、この歌を「きゆぬ」と呼ぶ人もいます。
 「御前風(ぐじんふう)」と呼ぶ人もいます。『御前風』と言うとき、『かぎやで風節』だけを指す場合(『御前風』=『かぎやで風節』)もありますが、もともと5つの曲を指しているようです。
 めでたい席で、国王の前で演奏する5つの曲=「五節(いちふし)」=『かぎやで風節』『恩納節』『長伊平屋節』『中城はんた前節』『特牛(くてぃ)節』を「御前風」と呼ぶのだとか。
 となると、「御前風」と言ったときに『かぎやで風節』一曲を指しているのか、先ほどの5曲まとめて表しているのかわかりにくい。そこで、5曲まとめて言う場合は「御前風五節(ぐじんふういちふし)」と呼ぶ人もいます。ああ、ややこしい。

 八重山でも、『かぎやで風節』は普通に歌われます。結婚披露宴でも見たことがありました。八重山のお祭りでも『かぎやで風節』が踊られることがあります。
 ある地域の「アンガマ」でも、口説きの最後に『かぎやで風節』の切り返し部分がくっついたものを演奏していました。

 学生のころ。季節は忘れましたが、日中でした。八重芸の部員数名で、石垣市白保へ歌の取材に行きました。「あそこのおじいさんが詳しい」と聞いて、その家へ。おじいさんは、座敷にいらっしゃいました。声をかけると、縁側の方へ出てきてくださいました。
 おじいさんは、座ったまま。私たちは庭に立って、いろいろとお話をうかがっていました。終始笑顔で話をしてくださいました。
 「さあ、話よりも、歌って遊ぼう。何歌う?御前風?」
 「あ、いえ、僕たちは八重山の民謡ばかりやっているので」
 「じゃあ、赤馬節だ。いっしょに歌おう」
 おじいさんは、目が不自由でした。三線はいつも弾いておられるのでしょう。歌おうと言うが早いか、部屋へご自分の三線を取りに行き、すぐに戻ってこられました。私も、ケースから自分の三線を取り出し、調弦します。おじいさんが打ち出します。歌っているときは、笑顔から一転、真剣な表情に変わりました。村の地方をなさっているのでしょう。ハリのある声で歌も三線も正確でした。
 歌い終わると、また笑顔に戻りました。
 「おもしろいねえ。じょうずだねえ」
 「おじいさん、今一緒に歌った人、内地の人なんですよ」
 「え?うそでしょう。ちがうよー。八重山の人でしょ?」
 「大阪人(ひと)なんですよ」
 歌っているのが誰であろうと、一緒に楽しく歌えたということが大切なわけですから、信じてもらう必要もないんですけれど。もちろん、私の仲間たちもそんなことはわかっているのですが、ちょっと面白い話題の一つに「大阪人なんですよ」などと言ったまでです。
 もし、私の顔を見ていただければ、信じてくれたかもしれませんね。
 お別れを言うと、
 「また、遊ぼうね」
 と、名残惜しそうに手を振ってくれました。『かぎやで風節』も弾けたらよかったと思いました。

2003,12