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伊良部トーガニ(宮古島)       
 数年前、友人たちが沖縄市の「民謡酒場」へ連れて行ってくれました。
 酒をまったく飲まない私を、「酒を飲む場所」へ連れて行くというのはおかしな話です。が、このときは私がお願いして連れて行ってもらいました。そのときまで、沖縄の民謡酒場という場所に行ったことがなかったのです。
 饒辺愛子さんと嘉手苅林次さんが舞台にたっておられました。さすがプロの歌。聞かせます。数曲楽しませていただいたあとは、お客さんが歌う「飛び入り」の時間。で、友人が一人で舞台に上がりました。友人は、私の名前を呼んで、
 「歓迎の気持ちを込めて、歌います」
 と、演奏を始めました。曲は「伊良部トーガニ」でした。
 彼も八重芸のOBです。彼の歌は何度か聞いています。が、彼が歌う宮古の歌を聞いたのはこのときが初めてでした。
 そういえば、彼のルーツは宮古島だと聞いたことがあります。卒業してから、宮古民謡も練習しているのでしょう。なかなか落ち着いた歌声。聞かせてくれます。
 私の前に座っている、親友に尋ねました。
 「あの歌、どう?」
 「うまいじゃないですか」
 「うまいのはわかる。聞きたいのは、宮古の味っていうのが出ているのかってこと。あんた、多良間だから、わかるんじゃないの」
 「うん。いいんじゃないですか。宮古の味、出てますよ。あんなに歌えるとは思わなかった」
 今思えば、歓迎の歌を評価するなんて失礼なことでした。その前に、歓迎の歌が「伊良部トーガニ」というのもちょっと変わっていますよね。私に対する歓迎の気持ちも込められていたとは思いますが、彼が今練習している歌を披露したかっただけだった?
 歌い終わって、席に戻ってきた彼に拍手。
 「うまいなあ」
 「いえ、まだまだ・・」
 緊張が解けて、友人の顔に笑顔が戻りました。

 生で聞く宮古の歌。いいものです。私も歌いたい。
 そこで、宮古民謡を数曲練習してみました。「伊良部トーガニ」も練習しましたが、これがむずかしい。間の取り方というのでしょうか。三線の「○」の長さがCDを聞くと、いろいろなんですね。最初の「さー」は、気分によって長さが変わるのだと思います。もともと三線伴奏なしで歌う歌だったのでしょう。それが、工工四に書かれるようになり、長さが決まってきた。決まってはきたけれど、やはり個性が出てしまうのでしょうね。
 発音も難しい。覚悟していたとはいえ、「イラブ」の「ブ」から悩まされました。八重山にもない音です。
 難しいけれど、楽しめる歌だと思います。
 「トーガニ」で思い出すのは、有名な「トーガニあやぐ」。どちらも「トーガニ」なのですが、「伊良部トーガニ」が自分の気持ちを表すような内容であるのに対して、「トーガニあやぐ」はお祝いの座敷で歌われることが多いようです。宮古民謡をやるなら、この二曲ははずせません。

 ある程度練習をしてから、親友に聞いてもらいました。
 「どう?」
 「うーん」
 「宮古じゃないみたい?」
 「なんというか、無理に発音してるように聞こえて」
 「無理に発音しないと、できないのに」
 「それに、なんだか八重山っぽいような」
 「そりゃあよかった」
 「え?」
 「大阪っぽいって、言われなかったから」