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ボケない小唄(沖縄〜全国?)    
 この歌に興味をもったのは、一通のメールからでした。

職場で神谷幸一さんの「ぼけない小唄」を演奏したいと思うのですが、工工四が入手できず・・・

 『ボケない小唄』という名前だけはどこかで見たような記憶があったのです。たしか、介護施設のヘルパーさんがよく歌っているという話だったと思います。
 メールに「職場で演奏したい」と書かれていますので、メールを送ってくださった方も介護関係のお仕事かもしれません。もちろん、相手の職業を尋ねたりしていませんので推測ですけれど。

 というわけで、『ボケない小唄』を知りたくなりました。

 まず、『ボケない小唄』をインターネットで検索してみます。100件近くヒットしました。その中のいくつかを見てみますと、どうもおかしい。「お座敷小唄の替歌で」という説明があるのです。

 先ほどのメールには、民謡歌手「神谷幸一」さんの名前がありました。「工工四が入手できない」ということも書かれていました。つまり、三線の音楽であるということです。そうでなければ、私の所へメールを送るはずがありませんよね。
 とはいえ、三線だから沖縄民謡だとは言い切れません。「この楽器はこの曲しか演奏できない」なんてことはめったにありませんよね。三線を使って、「はとぽっぽ」みたいな童謡を弾くことはできますし、歌謡曲だって何だって、メロディーに合わせて音出すことはできます。私はそんなに器用ではありませんけど。そう考えると、神谷幸一氏が、お座敷小唄のメロディーで『ボケない小唄』という歌を、三線伴奏で歌っているという可能性も否定できません。

 検索でヒットしたHPをいくつか見てみますと、CDが販売されていることがわかりました。そのCDには『茶売節』『白雲節』など、沖縄民謡らしい沖縄民謡がならんでいます。やっぱり、『ボケない小唄』は沖縄民謡なんですよ。・・・いや、待てよ。『キャロットアイランド』っていうのもある。(津堅島)という副題みたいなのもついていますけど。うーん。とにかく、買って聞いてみないとなんともいえません。

 インターネットで検索したところでは、神谷幸一さんの『ボケない小唄』が収録されたCDが2つ見つかりました。我が家(大阪)から一番近い「沖縄関係のお店」に電話をしてみますと、そのうちの一つがありますよとの返事。すぐにバイクを走らせて購入してきました。

 CDのフィルムを剥ぎ取るのももどかしく、震える手でプレーヤーに装着。13番目の曲『ボケない小唄』を聞いてみます。

 ん?なに?なーんだあ。

 お座敷小唄ではありませんでした。聞き覚えのある、懐かしい曲です。『赤田首里殿内』の替歌だったんです。歌詞が楽しい。なんでも、「お金とストレスを溜めるとボケる」のだそうですよ。

 これなら、工工四も簡単。『赤田首里殿内』の工工四を写せばいいのでしょうけれど、市販の工工四は基本的に「不許複製」ですし、CDの演奏の流れを工工四にしたほうがいいでしょうし、ということで、音を拾って工工四を作成。先ほどのメールを送ってくださったかたにお伝えしました。(『赤田首里殿内』は童謡ですので、曲そのものの著作権の問題はありません。歌詞は別です)

 メールに返信をして落ち着いたところで、『お座敷小唄』の件が気になってきました。どういうことなんでしょう。別の『ボケない小唄』があるのでしょうか。
 もう一度インターネットで検索。そして、ヒットしたHPを一つ一つ見ていきました。デイサービスセンター、老人会、中高年の踊り講座などなど、介護福祉やレクレーション関係のHPがほとんどです。しかも、沖縄だけではありません。全国に広がっています。「隠れたヒットソング」という言葉もあります。

 歌詞を紹介しているページもありました。それを見ますと、神谷幸一さんの『ボケない小唄』とほとんど同じです。でも、メロディーについては、『お座敷小唄』『松の木小唄』『ズンドコ節』『炭坑節』の4つが見つかりました。もちろん、『琉球民謡の替歌』と書かれているページもありました。
 歌詞の違いがあるのは、「もと歌」の一部を取り込んだり、『ボケない小唄』を楽しんでいるグループの名前や施設の名前を入れたりという改作があちらこちらでなされているからです。。
 つまり、本家本元は神谷幸一氏の『ボケない小唄』で、それが全国各地へ広がって、それぞれの地域にあったメロディーになり、歌詞を補完し、「地方版ボケない小唄」が誕生しているというわけです。

 先ほど、歌が『赤田首里殿内』であるとわかったときに、「なーんだあ」などと、失礼な書き方をしましたが、童謡を替歌にして高齢者と一緒に歌うというのはとてもよい考えですよね。沖縄ならば、知らない人がいないと言ってよいくらい有名なメロディーですし、しかも子どもの頃から親しんでいる曲となれば、お年寄りにとってとてもよい刺激になり、覚えやすく、楽しい。これ以上の「ボケない歌」はないでしょう。

 他府県のHPを見ていて、おかしなことに気づきました。『ボケます小唄』というのも書かれているのです。新作?いえ、違うようです。
 神谷幸一さんの『ボケない小唄』の歌詞は、1番〜3番は、最後が「・・・知らずにボケますよ」で終わっていて、4番〜6番は「・・・ぜったいボケません」で終わっているのです。どうやら、前半を『ボケます小唄』としているようなんですね。「ボケます小唄も歌(メロディー)は同じ」と書いてありました。
 勝手な想像ですが、この歌詞をみんなで読み合わせるときに、「最初の3つはボケますよという歌。あとの3つはボケませんという歌でーす」なんて説明をして、そのうち前半と後半を分けて考えられるようになり、「ボケます小唄」という名前も付けられるようになったのでしょう。

 この歌を、集会の締めくくりに歌っているとか、振り付けをして踊って楽しんでいるというグループもあって、どうやら『ボケない小唄』は全国でその姿を少しずつ変えながら愛され、広まっているようです。
 全国に伝播していく中で、それぞれの地域にふさわしい曲になっているという点も、沖縄で『赤田首里殿内』のメロディーを使っているのと、同じ意味ですばらしいです。これこそ、「民謡」のもっとも民謡らしい形といえるでしょう。


2004,3