三線音楽について、いろいろ書いてあります。役に立つかどうかはわかりません。 | ||
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正確なチンダミはつまらない | |||
古典や民謡の発表会へ行きますと、最初の演目では、たいてい大勢の人が舞台に板付き(幕が上がったときには、すでに舞台上に人がいる状態)で三線を構えています。 三線の打ち出しとともに、緞帳が上がり始めます。このとき、必ずといってよいほど、こう感じるのです。 「もうちょっと、ちゃんと調弦すればいいのになあ」 またまた身内の話で恐縮です。 「八重芸」の発表会では、必ず「チンダミ係」が調弦をします。他の団体の場合は、おそらく「自分の三線は自分で調弦」だと思います。たとえば、「今日のかぎやで風は、Cです」とかなんとか言われたら、みんな自分でCに合わせる。なかには、隣の人の三線を聞いてそれに合わせる。なんて感じではないでしょうか。 この方法では、調弦にばらつきが出るのは避けられません。ですから、緞帳が上がったときに「もうちょっとちゃんと・・・」となるわけです。 チンダミ係がいる八重芸は、発表会のとき、一度すべての三線を一つの部屋に並べます。そして、すべての三線をチンダミ係(2名程度)が調弦します。この方法ですと、ほぼ完璧に合わせることができます。 それでも、部屋から舞台へ三線を運び、出演者に三線を手渡し、緞帳が上がる前にもう一度調弦を確認してみると、必ずいくつかのずれが発見されます。これは、チンダミ係のミスではなく、運ぶ途中で音がずれたり、構え方の違いで音が変わったり、そのほか様々な要因がからんでいるものと思われます。チンダミ係もそのことを予測していますので、緞帳が上がる前に確認し、その場でもう一度合わせるわけです。 これだけやれば、調弦は完璧。いいえ、これだけやっても「ほぼ」完璧にしかなりません。やっぱりどこかに甘さが残っている。 今までに、2度だけ「本当に」完璧な調弦だと、私が感じたことがありました。このときは、調弦の確認のために、開放弦を「テン」とやると、音が伸びるのではなくて、空気に吸い込まれていくような感じでした。「さぞかし、すばらしい舞台になったろう」ですって?いいえ、調弦と舞台のすばらしさとは別ですし、このときの音は、はっきりいって「おもしろくない音」だったのです。満足しているのはチンダミ係だけ。 それでも、勘所を押さえれば人それぞれ微妙な(微妙といえないくらいの?)違いが出ますし、緞帳が上がり、歌が始まるころには、開放弦でもどこかでズレが生じて、チンダミが甘くなる。その甘さがちゃんと「おもしろい」音を作ってくれるようです。 『コーラス効果』という言葉を、かの「笛名人」が教えてくれました。 同一の楽器を演奏するとき、単体で演奏するのと、複数の楽器で演奏するのとでは、複数の方が豪華な、あるいは明るい感じがします。 同じ楽器で、同じメロディーを演奏すれば、楽器が3つになろうと5つになろうと、音は一つに聞こえるだけ。せいぜい音量が大きくなるだけだろう。と素人の私は頭の中で考えるわけですが、実際は違います。人間が演奏する楽器ですから、同じ音を出しているつもりでも微妙な違いがある。その違いが合わさって、音に「味」を付けてくれる。それが『コーラス効果』だそうです。 なるほど、チンダミを正確にやりすぎると「おもしろくない音」になり、少しずれ始めた頃に「おもしろい音」になるのは、それだったのですね。
という考えは、まちがいです。コーラス効果が期待できるのは、極めて小さなズレ。聞いていて、明らかに音が違うとわかるような調弦では、コーラス効果どころか、まともな歌を歌うこともできません。やっぱり正確に合わせるよう、努力しましょう。 |